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大阪高等裁判所 平成11年(ネ)2177号 判決 2000年9月13日

控訴人

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

中村和雄

被控訴人

甲野春子

右訴訟代理人弁護士

佐渡春樹

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載(一)の建物を明け渡せ。

2  被控訴人は、控訴人に対し、平成一〇年五月三一日から右建物明渡済みまで一か月二万五四〇〇円の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを一〇分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

三  この判決の第一項1、2は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を次のとおり変更する。

2  (主位的請求)

主文第一項1、2と同旨。

3  (予備的請求)

主位的請求のうちの建物明渡請求が認容されないときは、被控訴人は、控訴人に対し、五一万七三四五円及び平成一一年七月一日から右建物明渡済みまで一か月二万八二〇〇円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  仮執行の宣言。

(控訴人は、当審において主位的請求のうちの金員請求を一部減縮し、右3の請求を追加した。)

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二  事案の概要

事案の概要は、次のとおり付け加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張)

一  主位的請求の原因

被控訴人の遺留分相当額は、原判決の認定のとおり一三一万一九七六円であるところ、控訴人は、被控訴人に対し、平成一二年七月二六日の当審口頭弁論期日において、次の債権を合計一三一万一九七六円に満つるまで、民法一〇四一条一項に基づく価格弁償として提供する旨の意思表示をした。そして、(一)の預貯金等は、遺産であるにもかかわらず、平成五年一二月までに被控訴人がすべて解約、引出等により現金化しながら、控訴人の取得分を交付せず、(二)も控訴人に支払うべきところその支払がされていないのであるから、控訴人は、右提供の意思表示により、代償金を現実に提供したというべきであり、少なくとも、現実に提供したのと同視すべきである。

(一) 原判決別紙遺産目録記載(二)ないし(四)の預貯金等合計三一四万四一九三円のうち四分の一相当額七八万六〇四八円

(二) 控訴人が被控訴人から返還を受けるべき被控訴人の本件建物占有による不当利得のうち、平成八年五月三一日から平成一〇年五月三〇日まで一か月二万六七〇〇円の割合による金員合計六四万〇八〇〇円

二  予備的請求の原因

仮に、主位的請求における本件建物明渡請求が認容されないとしても、被控訴人の遺留分相当額は、原判決の認定のとおり一三一万一九七六円であるところ、これに基づく遺留分減殺請求権の行使は、まず原判決別紙遺産目録記載(二)ないし(四)の預貯金等の四分の一である七八万六〇四八円(控訴人の取得分)に対してされるべきである。そして、被控訴人は、その不足額をもって同目録記載(一)の土地及び建物に対し遺留分減殺請求をすることができるにすぎないから、右減殺の結果、被控訴人は、本件土地建物に対する持分一万分の三一三を取得したにすぎないことになる。したがって、控訴人が被控訴人に対して不当利得として返還請求できる金額は、平成八年五月三一日から平成一〇年五月三〇日までは一か月二万八六七三円、同月三一日からは一か月二万七三一七円の各割合による金員となる。

そこで、控訴人は、平成一一年七月二三日送達された本件控訴状により、被控訴人に対し、既発生(平成八年五月三一日から平成一一年六月三〇日までの間)の右不当利得返還請求権のうち、五二万五九二八円をもって代償金支払義務と相殺し、もしくは代償として同金額の債権を放棄する旨の意思表示をした。

三  よって、被控訴人は本件建物に対する持分をもはや有しないので、控訴人は、被控訴人に対し、主位的請求として、所有権に基づく本件建物の明渡を求めるとともに、賃料相当額の不当利得返還請求権に基づき、平成一〇年五月三一日から右建物明渡済みまで一か月二万五四〇〇円の割合による金員の支払を求め、かつ、右建物明渡請求が認容されないときにおける予備的請求として、賃料相当額の不当利得返還請求権に基づき、前記二の相殺ないし放棄後の残額五一万七三四五円及び平成一一年七月一日から本件建物明渡済みまで一か月二万八二〇〇円の割合による金員の支払を求める。

(右主張に対する被控訴人の答弁)

被控訴人の遺留分侵害額が原判決認定のとおり一三一万一九七六円であることは争わないが、控訴人のその余の法律上の主張はいずれも争う。

控訴人主張の価額弁償の申出は、いずれも現実の提供を伴うものではない。したがって、被控訴人は、いまだ本件建物の共有持分を失っていない。

第三  証拠関係

証拠関係は、原審記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  当裁判所は、控訴人の主位的請求は理由があると判断する。その理由は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「三 争点に対する判断」欄に説示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張について)

控訴人主張の価額弁償の当否を検討する。

1 引用した原判決認定のとおり、原判決別紙遺産目録記載(二)ないし(四)の預貯金等の合計三一四万四一九三円はAの遺産であったところ、右遺産はいずれも金銭債権であるから、相続開始とともに法定相続分に従い当然に分割されて共同相続人に帰属することとなったというべきである。したがって、控訴人は、そのうちの四分の一相当額七八万六〇四八円の金銭債権を取得したものであるが、被控訴人が平成五年一二月までに右預貯金等をすべて解約、引出等により現金化しながら控訴人の右取得分を控訴人に交付しないことは、前記認定のとおり明らかである。そうすると、他に特段の主張、立証はないから、被控訴人は、控訴人に対し、右七八万六〇四八円を支払う義務がある。

2 また、引用した原判決認定によると、被控訴人は、控訴人に対して、本件建物占有による不当利得返還義務として、平成八年五月三一日から平成一〇年一月二一日までの間で、一か月二万六七〇〇円の割合による合計五二万五九二八円を若干超える金員の支払義務を負担していることになる。

3 なお、被控訴人は、遺留分減殺請求権を行使した結果、本件土地、建物について、一三一万一九七六円の価値に相当する一万分の九六一の割合の持分を取得したのであるが、鑑定の結果と当裁判所に顕著な不動産の価格動向によると、本件土地、建物の時価は、平成五年の相続開始時より上回ることはないと認めることができるから、右持分の時価は一三一万一九七六円と認めるのが相当である。

4  ところで、控訴人は、当審において、控訴人が被控訴人に対して有する控訴人主張(一)、(二)の金銭債権合計一四二万六八四八円(一三一万一九七六円を上廻る。)を弁償金として提供する方法により、民法一〇四一条一項の価額弁償の申出をするのである。そして、右規程による価額弁償は、原則として、価額の弁償をする旨の意思表示だけでは足りず、弁償金を現実に提供する方法でしなければならないと解すべきであるが、受遺者等が遺留分権利者に対し本件のように遺産に関する確定額の金銭債権を有する場合には、右金銭債権を弁償金に充てる旨の意思表示をすることにより、有効に弁償された効果が生じるものと解するのが相当である。右の方法による弁償は、既存債権の放棄(債務の免除)の意思表示を伴い、これにより遺留分権利者の負担としていた債権が消滅すると解されるから、現実の履行と同視することができ、このように解しても、当事者間の公平を損なうおそれはなく、前記規定の趣旨に沿わないものではないと考えられるからである。

5 そうすると、被控訴人は、控訴人から右提供がされた平成一二年七月二六日(控訴人は、従前の提供申出内容を右期日に交換的に変更して、主位的請求原因における提供申出をしたことが審理の経過により明らかである。)に本件建物の共有持分を失い、同月二七日から右建物明渡義務を負ったと認められるから、控訴人の右建物明渡請求は理由がある。

6 そして、被控訴人の本件建物占有による不当利得返還義務は、前記免除の結果平成八年五月三一日から平成一〇年五月三〇日までの期間に係る分は消滅し、平成一〇年五月三一日から平成一二年七月二六日までは一か月二万五四〇〇円の割合により不当利得返還義務を負担し、同日価額弁償がされ共有持分を喪失したことに伴い、同月二七日から右建物明渡済みまでは一か月二万八二〇〇円の割合に増加したことになる。控訴人の主位的請求中の金員支払請求は、右認定の金額の範囲内のものであるから、理由がある。

二  以上の次第で、控訴人の主位的請求は理由があるから、認容すべきである。よって、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民訴法六七条、六一条、六四条を、仮執行宣言について同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・加藤英継、裁判官・伊東正彦、裁判官・大竹優子)

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